八百屋でせっせと白菜を運んでいた柴犬わっちがふと時計を見ると就業時間を過ぎていた。
「ヤバイ。もうこんな時間か…」色々な思考が頭の中を駆け巡るHSPのわっちは、仕事に時間がかかる。
「もう終わる時間でしょ~?わっち~?」とヤギのメェ店長が言う。
「す、すみません」と言い、残りの仕事を同僚に任せようとしたが、忙しそうな様子を見ると言い出せない。
「仕方ない。今日も帰ってから仕事だな…」しっぽに元気がなくなったわっちは、メェ店長に挨拶をし帰路についた。「今日もあれこれ余計な事考えちゃったな…」1つの仕事を先読みし内容の深読み、相手の発言の裏側にある本音ets…などを気にしていると、2倍にも3倍にも仕事が増える。休憩時間や休みの日も仕事するハメになってなることが多かった。
「そうやってスイッチをずーと入れっぱなしでいると休めないぞ?」後ろから、聞きなれた声がした。
「ドン先生!」わっちは驚いた。「どうしてここに?」
「いつもの庭で休んでいたら、偶然キミが通りかかったんだよ。何やら考え事をしている様子に見えてちょっと心配になったんだよ」とクマのドン先生。
ふと辺りをみると、いつもドン先生と話している庭の近くだった。「考え事してて、どこ歩いているかも分からなかったよ」とわっち。
「わっちはスイッチのオン・オフが苦手なんだね。もっと意識的にスイッチを切り替える時間を増やすことが大事だよ」と少し強めの口調でドン先生は話した。
「スイッチ?」わっちは不思議そうな顔でドン先生に言った。
「HSP気質の繊細でまじめな人や、頑張り屋さんほど、スイッチの切り替えが苦手なんだ。頼まれた事以上の仕事をしないといけない、手を抜くことに罪悪感がある、人に気を使ってしまって頼めないから、一人で解決しようとしてしまう。こうやってスイッチを切るタイミング、つまり休むってことを忘れてしまうんだよ」とドン先生。
「確かにそうだけど…。仕事が頭から抜けなくて、気づいたら休めてないんだよ」とわっち。
「いいかい。わっち。心のスイッチのオン・オフは意識的にしていこう。これは疲れたら休むという当たり前のことだよ。普通なら、なんだそんなことか…と思われることでも、HSPは神経が高ぶりやすく、意識しないと案外できないものなんだ。」先生は続けた。「仕事を終えて会社の外に出たら、もうわっちのプライベートな時間だ。お客様、上司、先輩…気遣いのできるキミは、仕事が終わっても、ここら辺の顔が頭の中をグルグルしてないかい?もう忘れていいんだよ!キミの人生はキミが主人公なんだから!」ドン先生の言葉に力が入る。「仕事以外の友人や恋人あるいは一人の時間を思いっきり楽しんでいいんだ!好きなお笑いやアーティストのライブに行っても、好きなカフェでゆったりしても、帰って趣味に没頭してもいい!」ドン先生はわっちを見る。
「ボクが主人公…。今まで他人ばっかりを見ていて、考えたこともなかったよ」わっちは言った。
「仕事はもちろん大事。だけど、ゲームで例えるなら、主人公が倒れてしまうとゲームオーバーになっちゃうよね?どんなに頑張ってレベルを上げてたとしても、最初からやり直しだ。だから、しっかり休憩ポイントでセーブすること。スイッチを切って休む時間を意識的に作っていかなくちゃ!」とドン先生は優しく言った。
「今のボクには難しいかもしれないけど、少しづつやってみたいな」とわっちは言った。
「よし、じゃあ今日は特別にご飯をおごってあげよう。新しくできたお店、知ってるかい?♪」
「でも…仕事が…」とわっち。同時にグ~っとわっちのお腹が鳴った。「そういえば、お昼も食べてなかったな…」
「スイッチを切り替える練習だよ!まずは美味しいご飯のことを考えな!さ、行くぞ~♪」
わっちに少し笑顔が戻った。2人は町の新しくできたという評判のご飯屋さんへと向かっていった。
つづく