柴犬わっちは家を出た。休みの日はいつも、お気に入りの誰も来ない空き家の広々とした庭で過ごす。

「やっぱりここは落ち着くなぁ」

普通に過ごしているだけても、物事の深い部分や細やかな所までを感じ取る性質のHSPである柴犬わっちは、心と体に疲れがたまりやすいのであった。大きな音や匂い、他人の表情などの刺激に敏感であり、他人の気持ちをよく察知しては自分のものとして受け止めてしまうこともある。ただ、悪い事だけではなく、相手の励ましやちょっとした微笑み、お気に入りの感触などがあれば、その良い刺激に対しても敏感に感じ取る。つまり喜びも大きいのである。

「今日はドン先生も来ないな…忙しいのかな?」

待ち合わせをするわけでもなく、いつもこの庭で、町でカウンセラーをしているクマのドン先生と会うのが日課になっていたが、今日は姿が無いようだ。

「一人の時間も好きだから…いいんだけどさ」わっちはつぶやく。「最近は仕事も忙しくてゆっくりするヒマもあまりなかったしな…。店長にもよく飲みに誘われてたし」

仕事の忙しさや慣れない人とのイベントなどが続くと、周りに気を使いすぎてしまい、あとになってドッと疲れが押し寄せてくる。

「今日は一人の時間を大切に過ごしてみようかな」わっちはお気に入りのふかふかの芝生へ移動し感触を楽しんだ。

誰にも会わず、誰とも会話することなく過ごす時間は、普通の人にとってはつまらないモノになってしまうかもしれない。だが、HSPや心が繊細なわっちのような性質を持っているなら、それは心の安らぎの時間。すぐに受けてしまう心への刺激、心の疲れを解消する重要な時間。

「一人の時間を意識的につくる」というのは、心が繊細な人や人間関係で疲れやすい人にとってはその疲労を解消するという意味でとても大切だ。週に何日かは意識的に、早めに家に帰る・お気に入りのカフェに行くなどして一人の時間を作ってみたいと思っていたわっち。

「そうだ!この前ドン先生から借りた面白そうな本があったんだ!」わっちは持っていたカバンから本を取り出し読み始めた。「落ち着いて本を読むなんて何日ぶりかな」わっちは嬉しそうな表情で読み進める。

落ち着いた状態で本を読む。大好きな音楽を聴く。心がやすらぐアロマをたく。いつも短時間しか入らないお風呂にゆっくり浸かってみる。ホッとする映画やドラマを鑑賞する。

一人の時間を作り、心が休まる行動を忘れがちな人は意外にも多いもの。特に繊細な心を持つ方は意識的に取り入れてみることにより、翌日また元気に活動できる。

わっちは本を読みながら、ゴロンと仰向けになった。雲がゆ~くり流れている。時折カタチを変えて見せる優しい雲の表情を眺めながら、いつの間にか、すやすやとお昼寝タイムに入るわっちなのであった。

 

つづく