柴犬わっちは勤務先の青果店でお仕事中。今日はふきのとうの香りを楽しみながら、春の野菜を売場に並べていた。
「おう!わっち!今日はオレ、先にあがるぜ」と言ってライオンのゴウ先輩が先に帰ろうとしていた。
すると、「あ!ゴウ君。ちょっとこの仕事残ってやっていってくれないか?」とヤギのメェ店長がゴウ先輩に仕事を頼みに呼び止めに来た。
「店長、俺、用事あるって、前々から言ってましたよね?今日は帰るっす!」とゴウ先輩が店長に言うと、「今日は忙しいから頼む!何とかならないか?」と店長が返す。
「もう!そう言うことは前々から言ってくれないと無理ですって!いつもじゃないっすか!」とゴウ先輩は怒りだした。
「そうは言っても、キミはここの社員だろ?上司の言うことは聞くもんだぞ!」とメェ店長も声を少しばかり荒げて言った。
わっちはどちらの言い分も、自分に解決せよと言われているような気がして、その場にいると辛い気持ちになってくる。何とかしないとという気持ちで勇気を振り絞った。
「あ、あの…、その仕事ボクがやりますよ?」
「わっちは下がってろ。店長のやり方は良くねえ。お前の仕事も増えちまうだろ?」とゴウ先輩。
「そんな言い方しなくてもいいだろ。わっちが手伝ってくれると言っているのに。」とメェ店長も返す。
物凄くその場に居づらくなってしまったわっちだったが、ゴウ先輩が予定があると言い、半ば強引に帰ってしまったので、店長がゴウ先輩に頼むはずだった仕事を引き受けた。
残業の後、「今日はすまなかったね。ゴウ君にも悪い事をしてしまった。後で謝っておくよ。」とメェ店長が言ってくれた。わっちは少しホッとした様子で帰り支度を整えた。
いつも寄り道して帰る空き家の庭へたどり着いたわっち。
「ふう~。他人のいざこざでも何だか自分事のようだったな。結局自分が仕事して回避できたから、まぁ良かったけど」とわっちが言うと、後ろからしっぽをポンと叩かれた。
「あ!ドン先生だ!来ないかな~って思ってたところでした!」とこの町でカウンセラーをしているクマのドン先生に話しかけるわっち。
「やぁ!わっち。今日は疲れた顔をしているね。私を待ってたってことは、また職場で何かあった?」とドン先生。
わっちは、お店で、ゴウ先輩とメェ店長が言い合いになり、無関係のはずの自分が解決せねばという気持ちになり、結局仕事を被ってしまったという話をした。
「刺激を察知しやすく、共感力が高いHSPは、他者のいざこざに無関係でも、自分事としてとらえてしまうことがあるよね。今日はわっちが仕事を引き受けたみたいだけど、他人の機嫌を取りに行ったり、無理に無関係な争いを治めたりする必要はないと割り切った方がいい」とドン先生。
「でも、先輩と店長の空気があんまり良くないのは耐えられないよ」とわっち。
「相手の機嫌は相手の責任。逆を言えば自分の機嫌は自分で取らなくちゃ。そんな風に割り切って考えることが苦しくならない考え方のポイントかな」
「まぁ、自分のせいで機嫌悪くさせたワケではないからなぁ。自分の機嫌は自分で取るか…」と少し納得した様子のわっち。
「そうそう。わざわざ相手が不機嫌だからと言って、自分までその感情に付き合ってあげなくてもいいのさ。自分と相手の感情のリンクを切り離すイメージだ。とは言ってもそう簡単に切り離せない場合は、物理的に距離を置くことが良い。休憩室で仕事をするとか、一旦コーヒーを飲みに行くなどでもいい」
「その場にいて、解決しなくてもいいの?」と不安そうにわっちは言った。
「確かに、相談者の中にもそんな考えを持っているHSPの方はたくさんいるよ。『相手が不機嫌なのは自分のせいだ』とか『愚痴を聞いてあげないと』とか『なんとか笑顔になってもらわないと』なんて頑張っている方たちだ。けど、結局、相手が自分で自分の感情と向き合わない限り、機嫌なんてもとに戻らない。その人自身が責任をもって自分自身で機嫌を取らないといけないんだ。だから、どんなに相手がイライラしていても、自分はニコニコしててOKなんだからさ!だから、自分のケアを最優先で考えよう」とドン先生は言った。
「なるほど!確かに機嫌って自分の心がけ次第だもんね。アドバイスありがとう!」とわっちはしっぽを振った。
庭の景観もやや春めいてきた。ふわっと吹いたそよ風に、ふきのとうがゆらゆらと揺れていた。
つづく