柴犬わっちは、今日も八百屋でせっせと品出し。香りのよい旬の果実をキレイに陳列させていた。
「あ!キャベツがもうないから持ってこなきゃ!」「あ!お客さんが困っているだろうから早く戻らなきゃ!」「あ!店長、この仕事忘れてるから、ボクが早めにやっとかなきゃ!」
わっちは仕事はできるのだが、HSPゆえの「深く考える」特性により今現在の仕事以外の情報も数多く感じ取ってしまい、なかなか前に進まない。
「はぁ~、なんかボクばっかり動き回ってる気がするなぁ?やっぱ、容量悪いのかな?まだここまでしかできてないや」とわっちはつぶやく。
「わっち、まだやってるのか?早く帰りなよ?今日は私が早く帰るぞ!お疲れ!」そう言ってヤギのメェ店長は早々と仕事を切り上げ、先に帰ってしまった。残りの仕事をやっとの思いで片づけたわっちは、定時を大幅に過ぎてから帰宅の途についた。
いつものんびり過ごしている空き家の庭に寄り道するわっち。ここに来ると、今まで張りつめていた心がすこしばかり緩むのを感じた。夜風がスーッと通り過ぎていく。
「今日はずいぶんと遅かったね」と後ろから声がした。
「ドン先生こそ、どうしてこんな時間に?」わっちが振り返ると、クマのカウンセラー、ドン先生が立っていた。
「今、今日の最後の相談者のセッションを終えてきたとこさ。私もこの庭で道草をくってから帰るのが日課なんだよ。誰かさんと一緒でね(笑)」とわっちをからかうドン先生。
「道草はくってないよ。考え事してるだけ~」わっちはむくれた。
「ははは。ところで、わっちの方こそ遅かったね。どうしたんだい?」とドン先生は質問した。
「なんかさ、目の前のやらなくちゃいけない仕事をしているんだけど、つい先回りして色々やっちゃうんだ。先回りした先で新しい考えが浮かんだり、間違いに気づいたり、他人の仕事をやる羽目になったり…。なんかボクばっかりが空回りして仕事が増えちゃってる気がして…こんな時間になっちゃった」とわっちは話した。
「う~ん。確かに深く考えるHSPにありがちな光景だね。色んな事に気づくと必然的にやらねばならない事が増えてしまう」とドン先生。
「そうなんだ。どうしたらいいのかな?」とわっちはドン先生に尋ねた。
「うん。『~しなきゃいけない』という思考にとらわれすぎてしまう時は、一度立ち止まって『~したい』という心の声をしっかり聴くことを意識しよう!普段、あれもこれもとアンテナを張りながら色々な情報を受け取るHSPは、あれもしなきゃ!これもしなきゃ!と言って、立ち止まることを忘れているんだ。『~しなきゃ』は頭の声。だけど心は体とつながってる。一心同体という言葉は同一の心と体にも言えることで、『本当はやすみたい』という本音、つまり『~したい』という心の声を無視しつづけると結局、体がついていかずに右往左往して仕事が逆に遅くなることが多い。もっと心の声に耳を傾けないと体はいうことを聞かないんだ」とドン先生。
「具体的に心の声を聴くにはどうしたらいいの?」
「わっちが『自分だけ仕事が増えている・しんどいな』と思った時がサイン!その時、頭は『仕事しなければいけない』心は『ちょっとやすみたい』という葛藤が起きている。わっちが『しんどい』と思ったら、短い時間でもいいから小休憩を入れると決めておこう。例えば一旦、窓を開けて深呼吸する、コーヒーを1杯飲みにいくなど、『休みたい』と思っている心の本音を叶えてあげることが大事だ。そうすることで、余計な思考が働かなくなるから、落ち着いて仕事が進められるぞ」とドン先生は説明した。
「そっか。確かに、今までぶっつづけで仕事して頭がぐちゃぐちゃになってたな…。思い切って休憩をいれてみようかな」とわっち。
「そうそう。仕事が増えてきた・しんどいかもと思ったら、繊細さんほど迷わず心を休ませる習慣を身に着けよう!そうなると、かえって仕事が早く終わるぞ!」とドン先生は微笑んだ。
今日は雲が少ない。キラキラと光る星がよく見える。2人は空を見上げながらゆっくり歩いて帰っていった。
つづく