柴犬わっちは、今日も勤務先の八百屋に出勤。
「わっち、おはよう。いきなりだけど、この前のだいこんの発注数、間違ってたから直しておいたぞ!」とヤギのメェ店長がやや強い口調で言ってきた。
「えぇ?すみません。大丈夫でしたか?」と不安そうなわっち。
「あぁ、まだ修正できる時間帯だったから、大丈夫だったよ。だけど、ちゃんと在庫を把握しないと、また間違えるぞ」とメェ店長はにこやかな表情だったが、言葉は真剣だった。
「はい。気を付けます。すみません…」そう言って、いつもの荷下ろしに取り掛かった。
いつもは正確な発注をするわっちだったが、その日は仕事が立て込んでおり、一つ一つ丁寧に仕事をこなしていく性格のわっちは、就業時間内に在庫確認まで手が回らなかった。
「はぁ~。まだ仕事が早くできないな。ボクはダメだな…。店長と顔合わせづらいし…。表情は怒ってなかったけど、言葉はキツめだったな~」そんな思いが頭の中グルグル駆け巡った状態で、仕事を終えたわっちは、いつもの庭へ。
すると、わっちの先生であるカウンセラーのクマのドン先生が先回りするかのように、座って待っていた。
「やぁ、わっち。仕事は終わったかい?」
「え?ドン先生、今日お休み?どうして、ボクの仕事の日、知ってるの?」
「ん?今は休憩中だよ。わっちの出勤日までは知らないけど、なんか浮かない顔をしているし、この時間帯は仕事帰りでしょ?」ドン先生は見透かすようにわっちに言った。
「さすが、鋭いね。今日は仕事でミスをして、店長に指摘されたんだ。その後、ずっと店長の顔が頭をチラついてしまって…。店長は大丈夫って言ってくれたけど、心配でモヤモヤしてたんだよ。こんな時、どうすればいいのかな?」わっちは胸の内をドン先生に話した。
「うん。わっちは偉いね。ちゃんと自分のミスを反省できて。そんな時はまず、自分の感情を認めてあげるんだ。反省できるのは、素晴らしい事だけど、繊細であるキミはつい自分を責めすぎるクセがあるでしょ?」ドン先生はわっちを見る。
「そうかも…」
「そんな時は、『ミスを指摘されて辛かったね。分るよ~』ってもう一人の自分をイメージして、落ち込んでいる自分の感情を肯定してあげるんだ。そうすると、少しずつ落ち着いてくる。HSP気質は深く考える傾向があるから、自分がダメなんだという沼にハマると攻め続けてしまいがちだ。だから、まずは自分から湧き上がってくる、辛いとか悲しいといった感情を肯定してあげるんだ。自分に自分で寄り添ってあげるイメージかな」とドン先生。
「自分を肯定する…。確かに店長の事ばかり気にして自分の感情は無視していたかも…」とわっちはドン先生を見る。
「それともう一つアドバイス。自分から出てくる言葉は、自分が深層心理で自分に思っている事なんだ」と先生。
「どういう事?」と不思議そうに質問するわっち。
「つまり、『あなたは仕事が遅いね。だからいつも他人に迷惑がかかるんだ』なんて言っている人は、『自分は仕事が遅いから、周りに迷惑かけている』と深層心理で思っている。つまり、人は鏡という言葉は本当なんだね。無意識に他人に自分を重ねて生きているのが生き物なんだ。この事を知っておくと、『この人に叱られた』と思う事が『この人は自分をそんな風に思っていきてる人なんだ』と解釈してとらえ直すことができるんだよ」ドン先生はわっちに微笑んだ。
「人は鏡か…とらえ方1つで見える世界が変わりそうだね。忘れないように覚えておかなくちゃ!」わっちは言った。
「そうそう!特に何か言われたときは、この人が勝手に自己紹介してくれたと思えばいい。逆に自分が人に何かを言う時は、自分のそこが気になっているという事だから、自分を見つめ直すきっかけにもなるんだ」とドン先生。
「そっかぁ。けっこう奥が深いんだね~」わっちがそう感心していると、ドン先生の電話がなった。
「おっと、次の相談者さんからの電話だ。そろそろ行くね」そうドン先生が電話片手に庭を後にすると、わっちは今日の出来ことを振り返る…
「店長もよく在庫確認忘れるのかな…?」
つづく