柴犬わっちは、八百屋で野菜の仕入れ作業をしていた。真剣に商品を選びながら発注をしていると、後ろから声がした。
「わっち、あの商品ってどこだっけ?」とヤギのメェ店長が焦った様子でわっちに話しかける。
「あの商品ってなんのでしょうか?」と返すわっち。
「今日のお客様の注文品だよ。今、お見えになってるんだ」
「それでしたら、さっき店長の机に置きましたって言いましたよ?」
「そうだっけ?俺の机な!わかったよ!」そう言って店長は部屋を出ていった。
「もう、すぐ忘れるんだから」そう言いながら、わっちは発注の続きをしようとパソコンに向かい画面を見ると、発注の締め切り時刻を過ぎていた。
「あー、まだ最後のにんじん注文してなかったのにー」そう言いながら、他ににんじんを確保できる取引先がないか探すわっち。しっぽに元気がなくなっていった。
色々な所へ連絡を取り、やっとにんじんを手配できたわっちは、店長にご立腹。先に帰ってしまった店長の後始末を終えて帰宅の途についた。
「はぁ~。店長は何であんなに忘れるんだろ?忙しいのかな?それとも自覚が足りないのか?お客様の注文品だぞ?」などと店長に対する責める心がうずまくわっち。「ふう~」とため息をついて、いつも寄り道をする空き家の庭の芝生に寝転んだ。
ぼぉ~っと空を眺めていると、大きな顔がわっちをのぞき込んできた。
「うわっっ!ドンドン先生、びっくりした!!」と慌てて飛び起きた。
この町でカウンセラーをしている、クマのドン先生だった。
「アハハ!ごめん②、驚かせちゃったかな?」とわっちをからかうような口調でドン先生は言った。
「もう、ドン先生ったら!」とわっち。
「ところで、そんなに上の空で、また何かあったのかい?私の気配にも気づかなかったし、考え事?」とドン先生はわっちに質問した。
「実はさ…」とわっちは店長に腹を立てていることや仕事が遅れたことなどを話した。
「そうか②、それは大変だったね。わっちのおかげで店長は助かったね。わっちはよく頑張ったね!」とわっちにねぎらいの言葉をかけるドン先生。
「ありがとう先生!」わっちは笑顔になった。「店長も一言そういうのがあってもいいと思わない?」
「まあまあ、店長もきっと色々な仕事で忙しかったんだよ」とドン先生。
「そうかな~?まぁ、それなら仕方がないけどさ」とむくれるわっち。
「仕事は予想外の出来事も起こるしね。忘れてしまうこともあるさ。大事なのは相手のミスに腹を立てない事さ。店長さんはお店全体の事を考えていて、複数の仕事を抱えている。そんな中、お客様の注文が飛び込んで、それをわっちに任せて、自分の仕事もこなして…とと目まぐるしく仕事をしていた。と考えると、店長さんが一番お店で色んな責任を担ってくれていることには間違いないのだから、店長さんのミスを許してあげよう」
「そうか。そう言われると、確かにボクにはまだまだ、知らない仕事があるし店長が担ってくれていることがたくさんあるんだよね」とわっちは悟った。
「そうそう。今回のポイントは、視点を変えるって事さ。相手の視点に立ってみると今までとは違った考え方ができるだろ?そうすることで、腹立たしいと思っていたことが、スーッと抜けて行って、相手を許すこととができることがあるんだよ。相手の新たな面に気づいて感動したり安心したりもできる」とドン先生は説明した。
「そうだよね。ボク、店長にイライラしちゃって悪かったな…でも、次からもっとうまくやれそうかも!」
そういって2人は同時にフカフカの芝生に寝転んだ。
夕焼けに染まった雲が形を変えながらゆーくりと流れていった。