柴犬わっちは、勤務先の青果店でシトラスフルーツの売場を作っていた。

「う~ん♪柑橘類の爽やかな匂いは良いなぁ♪」わっちはしっぽを揺らしながら、色とりどりのフルーツを並べていく。甘さのノッたオレンジ。爽やかな酸味のあるグレープフルーツ。最近のトレンドのマンダリン。どれもつい手に取りたくなるような魅力がある。

「おお!わっち!キレイな良い売り場だね。」ヤギのメェ店長が売り場を見ながら、わっちに話しかけた。

「え?キレイ?いや、まだまだですよ。みんなに比べたら下手っぴです。」わっちは店長の顔を見る。

「そんなことはないぞ!以前と比べたら、見せ方も良くなったし、カラーコントロール(商品の配色)もキレイだ。」と店長。

「いえいえ。ボクなんてそんな…。先輩たちの売場の方が全然いいですよ。」とわっちは頑なに認めようとしない。

「わっちがそう思うより、成長してると思うけどな~。」そう言いながら店長は別の売場へと歩いて行った。

 

その日のお昼。わっちは休憩室の日の当たるお気に入りの席で日向ぼっこ。

「わっちさん。隣いいですか?」

わっちが声の方を振り向くと、アルバイトをしているネコのハナさんが隣にお弁当をもって立っていた。

「あぁ。どうぞどうそ!」とわっちは少し端へ移動しハナさんの座るスペースを譲った。

「ありがとうございます。わっちさん。私の今日のお弁当のデザートは、わっちさんが作った売場から買ってきたんですよ!」とハナさんは笑顔を見せた。

「え?あんな売場から?買ってくれる人もいるんだな。ちょっと嬉しい。」とわっち。

「わっちさんの売場は繊細でキレイなのでつい買いたくなっちゃうんですよ。」とハナさんは言う。

「そうかな?自分ではまだまだ、先輩たちには敵わないと思ってて。反省するところがたくさんだよ。」とわっち。

「わっちさんは謙虚すぎますね。あんなに良い売り場作れるのに。」とハナさんはわっちの顔を覗き込む。

「そうかな?まだまだ雑だよ。」とわっち。

「確かに、他人と比べて反省することは大切だと思います。けど、100%に近いくらい上手くいった時でさえ、『自分はまだまだ』『反省しなくては』と思っていては、自己肯定感が上がっていかないですよ。もったいないですよ。」とハナさんはわっちにちょっと怒って見せた。

「そ、そうかな?自己肯定感、確かに低いかも?」

「わっちさんは、謙虚で良い方ですけど、自分をもっと肯定していくともっと輝きますよ!自分をほめる事をしてもいいと思います。いつも頑張りすぎなくらい、頑張っているんですから!上手くいかない事があると、もっと自分を責めてしまっていませんか?」ハナさんは心配そうにわっちに言う。

「確かに、良い事があっても誰かと比べて反省。悪い事があるとやっぱり自分はダメだと自己嫌悪に陥っているかも…。」としっぽを垂れるわっち。

「自分をほめる事は、決して自分を甘やかす事や調子に乗る事ではないですよ!『自分をほめる事は自分を受け入れる事』です。自分を肯定的に受け入れる事を続けていくと、自分の行いに自信がついて他人の評価も気持ちよく受け入れられます。そうするともっと輝きますよ。」とハナさんはわっちにニコっと笑顔を向けた。

「自分をほめる事は、自分を受け入れる事…か!ハナさんはやっぱりすごいや!」

「すごい…ですか?」

「うん!!ここにもカウンセラーがもう一人♪」

「カウンセラー??」

「いや、こっちの話!さっき店長にもほめてもらったんだ。それもありがたく認めていいんだな…。」

「そうですよ!自信もって!」ハナさんは笑顔を向けて、オレンジを美味しそうに食べ始めた。

すこし自己肯定感が取り戻せたようなわっちなのであった。

 

つづく