仕事帰りの柴犬わっちはクタクタになりながら歩いていた。
「ふう~、今日もたくさん仕事したなぁ」そう言いながら、ヨロヨロといつもの空き家の庭へ寄り道しようとするわっち。すると、スマホにLINE音が鳴った。
「ん?なになに…、お客様からの注文が入りました。明日対応お願いします…か」
わっちは町の八百屋で働いているのだが、どうやら明日に注文が入ったようでその旨の連絡であった。
「LINEも電話も便利だけど、仕事終わってからも仕事しなくちゃいけなくなるのはな…。」そう言いながらすぐに返信し、いつも道草をくっている庭の芝生に腰を下ろした。
しばらくしてからスマホにまたLINEが届いた。八百屋の店長からだった。
「明日、急用が入ってしまったので開店時、少し店を空けます。売り出しのポスターを張っておいてください」とのこと。店長からの連絡だったので、すぐに「わかりました」と返信するわっち。
「ふう~。スマホがあると便利だけど、振り回されてる感じがするな…。まぁ仕事だから仕方ない」そう言って、ふと顔を上げると、知り合いの先生がニコっと笑顔で手を振っていた。
「ドン先生!」とわっち。
この町でカウンセラーをしているクマのドン先生もよくこの空き家の庭に訪れる。
「今日はなんだか浮かない顔をしているね」とドン先生はわっちに話しかけた。
「うん。さっきから仕事の連絡でスマホが鳴っているんだ。終わってからも仕事している気がして、なかなか気が休まらないよ」とわっちは、ふう~っとため息をついた。
「そうだな。わっちのような真面目なHSP気質をもっていると、『すぐに対応しないと相手に悪い』とか『相手から嫌われるかも』なんて思い込みが強く表れることが多いでしょ?そんなことから、精神的に強いストレスや疲労感が抜けないという方も多くいることが問題になっているね…」とドン先生。
「そうなんだ。後で落ち着いてから連絡すればいいか…って言うのができなくて、そんなに重要じゃない事にも早く返信しないと、心配で不安な気持ちが大きくなってくるんだ」とわっち。
「今は、どこでもスマホで連絡が取れる時代だから、便利な反面、人によっては窮屈だ。食事をしながらスマホ、電車に乗りながらスマホ、本を読みながらスマホ、テレビを見ながらスマホ…これだと繊細な心を持つ人は特に情報過多で精神的に疲れ切ってしまうようね」ドン先生はづづけた。
「そんなときはさ、わっち。スマホから離れるマイルルールを作ってみよう。例えば、食事をする時は、スマホは鞄にしまっておくとか、仕事が終わってから〇時まではスマホは見ないとか。1番して欲しいのが、夜寝る前はスマホをいじらない事かな。スマホのブルーライトで眼が冴えてしまうのもあるんだけど、HSPの場合、刺激に対して敏感だから、明日の仕事のLINEを確認したり、逆に楽しい情報なんかが飛び込んできてしまうと、それに影響されて睡眠が邪魔されてしまうんだ。だから、寝る前はスマホとは距離を取るのがいいね」とドン先生は説明した。
「夜寝る前はSNSとかネットサーフィンで寝落ち…ってこと結構あるな…。確かにそれで眼が冴えちゃったりしてるかも…。少し控えてみよっと」とわっち。
「うん。さぁ。さっそくスマホを閉まって!途中まで一緒に帰ろうか!」とドン先生。
夕日に照らされて2人の伸びる影が仲良く並んでいた。他愛もない会話をしながら2人は庭を後にした。
つづく