「今日のおすすめはほうれん草です!おひたしや和え物、お鍋にしても美味しいですよ♪」
柴犬わっちは八百屋でお仕事中。いつものお客さんに今日のセール品をおすすめしていた。
「あら、本当?じゃあもらっちゃおうかしら?」とお客さん。
「ありがとうごさいます!」とにっこり笑顔を見せて、店の奥に戻ろうとするわっちに、お客さんが「わっち君、ちょっと聞いてよ、ウチの旦那がね…」と話しかけてきた。
わっちは聞き上手なのか、繊細で控えめなHSP気質であるため、お客さんの世間話やたまに愚痴なんかの聞き役になることが多かった。
お客さんとの会話を終え、休憩に入るわっち。「はぁ~。旦那さんの愚痴長かったな…。良いお客さんなんだけど…」
常連のお客さんは、わっちが話を聞いくれるので、気に入ってくれているようであったが、つい家庭の愚痴や不満をこぼすことも多く、わっちも困ってしまうことが多かった。
仕事帰り、今日は疲れたので早く帰ろうとしたが、明日も顔を合わすであろう常連のお客さんとのことが頭をよぎったので、いつもの庭へと足を向けた。
「お!いらっしゃい!」読みかけの本を置き、クマのカウンセラー、ドン先生はわっちに声をかけた。「今日はどうしたの?」
「実は…」と常連のお客さんの話を始めた。「明るくて良いお客さんなんだけど、いつの間にか愚痴の聞き役にボクがなっちゃてるんだ…。他の仕事もあるし、遅くなっちゃって…」とわっち。
「う~ん。わっちにもお客さんが付いたんだね!仕事ではお客さんの信頼を得ることがとても大事。ファンが付くことは良いことだよ!」とドン先生。
「嬉しいんだけど、仕事の話以外のプライベートな話はちょっと…。距離をとるのもなんか冷たく感じさせちゃうだろうし…失礼だよね?」
「う~ん。難しいね。あまり仕事に関係ない人なら、ちょっとトイレに…なんて物理的に距離を取るのも方法の1つだけど、お客さんだからね。毎回トイレに逃げるわけにもいかないか(笑)」とドン先生。
「うん。それも考えたんだけど…」と困ったような表情を浮かべるわっち。
「その他の方法としては、話の話題を変えるとか。愚痴になりそうになったら、『そういえば~』と自分の得意な話題に切り替える。わっちなら、今日のセール品の話をするって決めておくとやりやすいんじゃない?」とドン先生はわっちを見た。
「まぁ…話す内容をあらかじめ決めておけば、何とか話題を変えられるかな…?」とわっち。
「うん。話を切り替える時は『そういえば!』が合言葉だ!あとは、レベルが高い話になってしまうけど、お客さんの話に対してアドバイスをして一旦、その場では解決するとか、話を『それってこういう事ですね』とテレビの司会者のように結論でまとめる、ということをすると、それ以上話が長くならない傾向にあるよ」
「それはボクには難しいよ(笑)もっと簡単じゃないと」わっちはドン先生にツッコんだ。
「ごめん②。それは私がよくやるんだよ(笑)話上手な人ならよく使うテクニックだ。そうだな、話下手だと言うならなら例えば…『このあと席をはずすのですが、でも5分だけならお相手できますよ?』とか『会議が始まる前までならお聞きできますよ?』など時間を指定するとか、あとは、心が繊細な人だってことを相手にアピールするとかかかな?」
「なるほど。時間を区切れば、話を終えやすいかも!でも、心が繊細なのをどうやってアピールするの?」わっちは不思議そうに質問した。
「例えば、『その話を聞いていると共感しちゃって悲しい気持ちになりますね』とか『辛くて聞いてられないですよ~』などHSPの共感能力の高さを言葉に出すんだよ。相手に自分の辛さやしんどさが伝われば、話すのを辞めてくれる場合もあるよね?」とドン先生は説明した。
「確かに…そうかも。そのまま話続けてくる鈍感な人もいるけど(笑)でもやってみる価値はあるかな…」とわっち。
「全部が全部、相手に真意が伝わるわけではないけど、相手を傷つけずに、こちらの気持ちを伝えるちょっとした方法だね。明日から少しずつ試してみるといい。」とドン先生は言った。
「先生!いつもありがとう!さすが町のカウンセラーだね!」
わっちは元気にしっぽを振った。先生はいつもの優しい笑顔を浮かべていた。
つづく