柴犬わっちは午前中の仕事を終えて、お昼ご飯を食べるところ。

いつも、日の当たる隅っこのテーブルで日向ぼっこをしながら一人で食べるのが好きだった。

 

「わっちさん、隣いいですか?」と声がした。最近アルバイトで入ったネコのハナさんだった。

 

「あっ、えっとっ、いいですよ…」わっちは慌てて答えた。隣にあまり話したことのない人が座ると急に緊張してきた。「何か気の利いたこと言わないといけないな…」そう思考がわっちをせかした。

 

「わっちさんの座ってる席、あったかくていいですよね。私もよくこの辺に座って休憩しているんです」そうハナさんは話す。

 

何気なく話してくれるハナさんと上手く会話をしたいわっちだったが、なかなか言葉がでなかった。

 

「えっと…そ、そうですね…」そう絞り出すのが精いっぱいだった。

そして沈黙が流れた。2人はぎこちない会話を何度か交わした後、休憩を終えた。

 

「ふう~。何を話すのが正解だったんだろ?雑談ってボクには難しいな…」そう思うわっちだった。

 

 

帰り道。いつもの庭へ足を踏み入れると、一足先にカウンセラーであるクマのドン先生の姿があった。

 

「ドン先生、こんばんは~!」

 

「こんばんは、わっち。今帰りかい?」とドン先生は読みかけの本をしまいながらわっちに話しかけた。

 

「そうだよ。ところでさ、あんまり話したことのない人との雑談って何話したらいいのかな?」と切り出し、今日あった出来事をドン先生に話した。

 

「ふむ。雑談か。確かに口下手わっちには難しいのかもな(笑)けど、雑談を通じて相手の意外な一面が見えたり、共通の趣味なんかが見つかったりと得られるものも大きい。人生においては大事だよね」ドン先生はわっちを見ながら話す。

 

「ボクも話しかけてくれるハナさんに申し訳なくて、頑張ったんだけど、頭が真っ白で…」とわっち。

 

「うん。まず、相手に自分が話したいかどうかというポイントはクリアしているようだね。別に雑談というものは必ずしなくてはいけないものではない。相手が苦手とか話したくない相手の場合は、無理に雑談に持ち込まなくてもいいんだよ」とドン先生。

 

「話しかけてくれても?なんか悪いな…」とわっちは話す。

 

自分に合う人合わない人がいて当然なんだから、挨拶くらいはちゃんとして、それだけって関係でも問題ないととらえよう。無理して会話して、自分が苦手なことが伝わってしまうかもしれないし、いつまでも仕事モードで、心のスイッチが切り替わらないしね」とドン先生はわっちに言った。

 

「じゃあ、話したい人に対しては…?といっても自分の話で相手が盛り上がってくれないかもだけど…」

 

「そんな風に思わないの。例えば、相手が身に着けているモノを褒めてみるとか天気の話から入るって、あらかじめ決めておくと、話のきっかけをつかみやすい。『今日のネクタイおしゃれですね』とか『今日はいい天気ですね』とかベタだけど、話下手はそれにすら気づけていないか、話す気がないんだよね。話したくないって人は無理に話さなくてもいいけど、わっちは話したいって意欲があるよね。だったら、試してみるといい」ドン先生はさらに続けた。

「あとは、自分の話で盛り上がるかな?とか話のオチが無いということを気にしなくて良いという事。そもそも雑談なんて、目的は話す事にあって、それ以外に笑いを取るとか、興味をもってもらわないといけないなんてことは一切ない。ただ、相手とじゃれ合うってだけのことさ。もっと気楽に考えるといい。話が見切り発車でも、どんなに他愛のない話でもひとまず声に出してみることを試してみよう。あとは相手に任せて。意外に話にノッきてくれることもあるし、相手が話しだして、逆にこっちの話す隙がなくなることだってある(笑)」とドン先生はわっちを見た。

 

「確かに、ボクは聞き役になることが多いから、相手に話してもらうきっかけ作りって思えばいいのかも!」とわっち。

 

「そうそう。難しく考えるとはじまりの一歩が踏み出せないぞ。まずは決めておいたことから話して、例え会話がかみ合わなくなっても、ふと思いついたことを気軽に話してみよう!ゴールが無くても、それが雑談ってもんだよね」

 

それから二人の雑談は少しばかり長引いた。夕日のオレンジもすっかり影を落とし、辺りは暗くなっていた。家に帰ることを決め、オチの無い話を永遠と繰り返しながら歩いていくのであった。

 

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