色鮮やかなトマトが並ぶ八百屋で、柴犬わっちは今日もお仕事。

「今日のトマトは新鮮で美味しそうだねぇ」と常連のお客さんとお話しながら、すぐに減っていくトマトをせっせと補充していった。

「今日のトマトは確かに色艶が良くて美味しそう。価格も安いしすごく売れていきそうだ」とわっち。時間が経つにつれ、お客さんの入りも良くなっていき、仕事がだんだん忙しくなっていった。

「わっち。トマトが足りなくなりそうだから、ちょっと仕入れ先に連絡いれてくれないかな?」と店の奥から声がした。ヤギのメェ店長が奥のドアから顔だけ覗かせ、こっちを見ていた。

「え?あ!はい!わかりました!」とわっちは返事をし、トマトを片手に仕入れ先に連絡をいれる。

「それと、わっち。このポスターをそこの壁に貼って、ここの商品の発注をお願い。そこの白菜も品出ししておいて。あ!ついでにそこのゴミも捨ててきて!」そう店長は矢継ぎ早にわっちに指示を出す。

仕入れ先に連絡を取りながら、色々な事を任されたわっちは、パニック状態。「え?なに?白菜?ポスター…あとは何だっけ?あ~もうできっこないよ!」そう心で思いながらも、「任されたんだからやり遂げないと!」という気持ちとの葛藤を起こし、心がぐちゃぐちゃになりながらも、何とか仕事を進めた。

 

やっとの思いで仕事を終えたわっちは帰り道。「ふう~。1度に色んなことを言われるとパニックになっちゃうな。結局、白菜はほかの人がやってくれたし。ポスターは店長が付けてくれたし」そうブツブツと言いながら、いつもより道をする空き家の庭へたどり着いた。

木陰のベンチでは町でカウンセラーをしているクマのドン先生が居眠りをしているところであった。

「わぁ!」とわっちが大きな声と出すと、大きな体は想像以上にビクッと反応し、ドン先生は飛び起きた。

「わ~!びっくりした!ってわっちか。もう、驚かすなよ~」とドン先生は苦笑いでわっちの方を見る。

「えへへ!びっくりした?ドン先生が居眠りなんて珍しいね?」とわっちは尋ねた。

「今日はちょっと忙しくてね。ここで休憩してたんだ。わっちは今日、どうだったかな?充実してたかい?」と次はドン先生がわっちに尋ねた。

「実は…」そう言いながらわっちは、1度にたくさんのことを頼まれた事やそれでパニックになり、全部の仕事ができなかったことをうつむきながら打ち明けた。

「そうだねぇ~。HSPは物事を深く処理する性質があるから、1つの事でも色々なやり方、切り口を考える。だから1度にたくさんの事を頼まれると色んな考えが湧いてきてパニックになることが多いんだ」とドン先生。

「そうなんだ。でも、せっかく頼まれたんだから、やらなくちゃ!って気持ちにもなるし」わっちのしっぽがしゅんとなった。

「そんな時は、まずは深呼吸。色んな心配事が増えると、呼吸が浅くなるから、1度深呼吸して副交感神経を働かせよう。そして、1つ1つ紙やスマホのメモアプリに書き出すことがおすすめ。HSPは1度に色んな事が頭に思い浮かんでくるから整理するのが難しい。自分でできるつもりでも、情報量が他人より多く浮かんでくるから、抜け落ちる事ややり忘れる事があるからね」とドン先生。

「確かに。今日は白菜の品出しとポスター貼りは、結局やれなくて…」

「そうそう。『あれやって、次はこれ、そして…』と常に頭の中が忙しいでしょ?この思考を書き留めておくと気持ちが落ち着く。あと、タスクと一緒に自分の気持ちも書き出してしまう事もテクニックの1つ。感情は溜めておくとストレスだけど、吐き出すとラクになるでしょ?紙に『こういう事をしなければならなくて不安』『忙しい時にこんなことを言われて腹が立つ』など紙やメモアプリに吐き出すことでその場での感情が少しラクになるよ」とドン先生は説明した。

「そうなんだ…。ちょっと試してみようかな!」とわっちはニコっと笑顔を見せた。

「うん。後は、その中でも重要なことから1つずつ取り組むことが大切。あれもこれもと同時に対応しない。HSPはマルチタスクで物事を処理するのは苦手な人が多い傾向なんだ。1つ確実に終わったら、また1つ。というようにシングルタスクで物事を進めた方が、結果的に早く終わらせることができるよ」とドン先生。

「確かに!色々同時にやると結局終わらなくて中途半場に色々残っちゃうもんな。書き出すことと1つずつ確実に…か」わっちのしっぽがピンと上がった。

「よし!少し元気がでてきたみたいだね。じゃあボクはさっきの居眠りの続きをしようかな(笑)」ドン先生はそういってすやすやと眠ってしまった。

「先生寝るのはやっ」そう思ったわっちも、気づくと夢の中にいたのであった。

 

づつく